変化の風を読む
21世紀は知の時代といわれる。社会が豊かになり、消費者の欲しいものが多様化してきたなかで、企業は生き残りをかけて新しい発想、アイデアによる付加価値の高い商品やサービスを提供していく必要性に迫られている。
ダーウィンの進化論で述べられている生き延びる生物の条件は、力の強いものでもなく、知能の優れたものでもない。環境の変化に柔軟に対応していけるものが生き延びるのである。
経済の変化が読みにくい現在、時流に乗る為に必要な条件は「気づき」や「閃き」である。時流の変化の風を読む感性が重要といえる。
数十年前、トースターにネズミ捕りを付けるというアイデアがあった。倒産の危機に瀕していた米国家電メーカーが社員にアイデア募集をした時の話である。
これは当然のごとく一笑され、「そんなの売れっこないよ!」「非衛生的だ!」と評価は散々であった。しかし役員の一人が興味を持ち、その社員がなぜそのようなことを考えたかを尋ねた。
その社員はトースターから出るパン屑を食べに、夜な夜な現れるネズミに悩まされていたのである。早速その役員は開発部長を呼び、新しいトースターの開発を命じる。もちろん「ネズミ捕り付トースター」の開発ではない。「パン屑の出ないトースター」の開発を命じたのである。これは大ヒット商品となり、この会社を倒産の危機から救ったのであった。
この会社はGE(ゼネラル・エレクトリック社)である。エジソンが設立した会社であり、今や家電製品、医療用機器、発電所、航空機エンジン、素材、宇宙開発、金融事業など、広い分野で高いシェアを持つ世界最大の複合企業となっている。その時価総額はトヨタの3倍にもなるというから凄い。
一見くだらないと思われるアイデアの中に、世の中に大きく影響を与えるヒットの種が隠されていることがある。重要なのは問題の本質を見る感性だ。本質を捉えたアイデアはヒット商品に繋がっている。
偶然のヒントに気づく
携帯電話において新機能開発によるユーザー獲得競争は熾烈を極める。この中で"写メール"は大ヒット商品となった。内臓のカメラで撮影した写真を遠方の家族や友達に簡単に送ることができるものだ。これは消費者の潜在意識の中にあるニーズを上手く捉えた結果である。
J-フォンの開発者が箱根を旅行したとき、ロープウェイに乗り合わせた一人の観光客が、外の光景を携帯電話のメールで一生懸命文章にしている姿を見かけた。このとき「感動は誰かと共有することで何倍にも膨らむ」とヒントを得、写真をメールで送ることを閃いたのである。
常に課題を持ち悩み考えていると、ちょっとの偶然がヒントとなり悩みの解決を与えてくれる。やはり創発には悩みといったカオス状態が必要といえる。そのためには消費者のニーズを如何に捉えるかが重要になる。
苦情・クレームはアイデアの宝庫
今やモノ余りの時代である。私たちの周りには多様な商品が氾濫している。消費者にも何が欲しいかの明確なニーズが見えていない。アンケート調査によっても新しい商品やサービスの種が見つけにくくなっているのである。
このような中、ユニクロはユーザークレームに注目して成功した。"ユニクロの悪口言って100万円"というキャンペーンにより、素晴らしいクレームを提供した消費者には賞金100万円が与えられた。これによりユニクロは消費者の本音を集めるのに成功し、大ヒット商品への開発に繋がったのである。
福井商工会議所は"苦情・クレーム博覧会"を2004年から開催している。全国から苦情・クレームを集め企業に買って頂く仕組みを作った。初年度、福井市内でその内容を展示し好評を博したため、2005年からはインターネットでも開催され、現在3万件近いクレームが集まっている。ここから多くのヒット商品やサービスが生まれることを狙っている。まさにクレームはアイデアの宝庫といった感じだ。
こうしてみると明確な課題を見つける方法は、消費者のクレームやお客様相談センターなどに寄せられる問い合わせ内容にありそうだ。そして、その意見の表面的な感情に惑わされず、その奥に潜んでいるお客様の本音を、如何に課題として抽出するかが重要となっている。課題が明確になったら、「アイデアを作る5段階法則」というものを活用したい。
アイデアを生む5段階プロセス
アメリカ最大の広告代理店であるトムプソン社の常任最高顧問であったジェームス・W・ヤングの説である。私が発明を生む中で体験してきた内容と合致している部分が多いので紹介したい。
第1段階:資料を収集する。
(当面の課題の為の資料と一般的知識を得るための資料)
第2段階:集めた資料を咀嚼する。
(心の中で資料に手を加える。)
第3段階:孵化段階
(問題を忘れ、問題を無意識の心に移す。)
第4段階:アイデアの出現
(あるとき不意にアイデアが浮かんでくる。)
第5段階:アイデアを具体化する。
(生まれたアイデアを現実の世界に持ってくる。)
各段階には関連性があり、前段階が完了しないと次の段階に進んではいけない。この内容を見ると課題がハッキリしている案件について、解決策を見出すのに有効な手段といえる。よく発明者にどのようなときにアイデアが生まれたかを聞くと、トイレや入浴中や就寝前といった答えが返ってくる。
しかしトイレや入浴を毎日それも何十年も経験しているのに、アイデアなど出てこないとお嘆きの方も多いと思う。これには悩みが必要なのである。課題に対して集めた情報により試行錯誤し、頭の中にカオス状態が作られることが重要なのだ。この5段階法則はそれを上手く説明している。
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